壷中の天国

 

仕事を終えて、自室に戻ってきた大神は見てはいけないものを見てしまった感覚に囚われた。
部屋の隅でうずくまった白い大きな塊が何かをしているのだ。
ふらっと立ちくらみ、同時にこめかみをやや強く押さえた。
「…」
この部屋から早急に立ち去らねばならない…そうだ、今日は楽屋に布団でも引いて寝ようと思ったが、
その前に見るからに怪しげな表情をした加山に捕まってしまった。

「いよう、壷はいいなあ〜大神ぃ!」
陶磁のものだろうか、白い壷を抱えながら加山がにへらっと笑う。
それは中国的な緑色の文様があり、壷にしては珍しくふたのようなものもついていた。

「まぁ、聞いてくれ」
ふたを開ける。
キャチャ。
ふたを閉める。
キャリ。
「ほら」
幸せでたまらないといった表情で加山がこちらを窺う。

しかし、
「…それがどうしたんだ?」
大神には加山の笑みの意味が理解できないのか、困惑した表情で加山をみつめるだけだ。
そして、それが逆に加山には理解できない。
「どうしたんだって…素晴らしい音じゃないか…」
「…そうか?」
キャチャ、キャリ。
もう一度、加山は同じ動作を繰り返すが、大神の視線に特に変化はない。
「ただの金属音じゃないか」
「…もういい」

部屋の隅に戻ると、ただし今度は大神の方を向いて、再び加山は壷をいじりはじめる。
「これはこの音に狂って身代をつぶしてしまった資産家もいるという魔性の壷なんだぞぉ〜。
…まぁこのあたりは眉唾なんだがな…量産品だし」

キャチャ。
「昔から大神は俺がギターでいろいろな曲を弾いても、感動とかしてくれなかったものなあ…
そうだ、そうだ大神に感性とか期待した俺が悪かったんだ」

キャリ。

机に座って加山の行動を全く無視していた大神だったが、加山の最後の言葉には異論があるのか、
椅子を動かし加山の方を向くと、少しいらいらとした言葉を紡いだ。

「それはおまえのギターだからだ…俺だって初めて花組の舞台を見たときは感動したぞ」
「…俺のギターって部分は聞き捨てならないが…じゃあなんでこの音には感動してくれないんだよぉ〜」
壷を何回も加山は開け閉めする。
悲しそうな、すがるような目で見られてしまった。
「仕方ないだろう…こういうのは人によって違うんだから…用が無いなら月組に戻れよ」
優しく言い聞かせるように、それでも調子に乗らないように冷たさも含ませながら、大神は加山を見下ろす。
まったく、世話がかかることこの上ない。
「嫌だ…俺は大神とこの音を楽しみたいんだぁ」
だだをこねるように、足をばたばたと動かし、壷にほお擦りしてみせる加山。
むぅ、とすがるような視線がより強くなったのを感じた。
こうなると、付き合ってやらなければ加山は納得しないのだ…溜め息をつき呆れたように大神は加山を眺めた。

「…好きにしろ」
それだけ、言う。
すると、ぱぁっと加山の表情が一遍に明るくなり、壷の開閉を再開した。
このあたり、花組の誰よりも加山の心境の変化は掴みやすい。
キャチャ、キャリ、キャチャ、キャリ、キャチャ、キャリ…。
あれから数十分…飽きもせずに加山は壷を触り続けている。
一方、大神も文句らしい文句も言わずに、その光景を眺め続けていた。
「大神もこの壷も魅力がやっとわかったのか〜。俺は嬉しいぞぉ」
大神がずっと微笑んでいるのを見て、加山が嬉しそうにそう呼びかける。
「…まぁな…おまえは好きなものには本当に情熱を傾けられるよな…これを書類仕事なんかにも生かせないものかな」
「はっはっは♪ あまり褒めるなよ、大神ぃ〜」
加山は一心不乱とさえ言える熱心さで、壷を開けては閉め、閉めては開け…
だから、大神の視線が壷ではなく加山自身にあったことには残念ながら気づかなかった。



くりぞお様からサクラオンラインにて「中国の壺」ゲット記念に頂いたSSv
本当なら、私のイラストをつけて同時にアップ、としたかったんですが…
何時までも、私の方がイメージどおりにイラスト描けないもので
随分長い事お蔵入りしていた物でございます(--;)
あんまりにも長い事置いてあるものですから、許可を頂きこの度SSだけ
先にアップさせて頂きました。
そんな訳なので、その内みずぎりのイラストがつきます。
…折角頂いた物なので頑張って描きたいんですよ〜(^^;)
くりぞおさん、本当に長い事すみませんでした…(--;)
そして、可愛らしいお話をありがとうございました!!
加山、かわいすぎます…vvこんな加山なら部屋に欲しい…(笑)