鬱金香


「だってさぁ、殺風景じゃねぇか、ここ。どこまで行っても真っ白ーい壁、かべ、カベ、でさ。」

そう言ってリュウセイの持ってきたものは、茶色い陶器製の植木鉢だった。
いまどきあまり見かけることもないような代物だが彼はわざわざ実家に戻った時に持って来たらしい。
ご丁寧に、汚い字で「伊達隆聖」と書かれたプレートまで刺さってある。
…おそらくは幼稚園だか小学校だかで使ったものなのだろう。

「おれ、よく角をどこ曲がるんだったか忘れちまうんだよな。
だから目印に角の所に置いとこうと思って。…いいよな?これぐらい」

折角置くのなら花がいいだろう。
どこでそう思ったかは知らないが、その花がチューリップだと言うのも何となく彼らしいかもしれない。
それはすでに大きな蕾が付いており、赤い花が咲くということを教えている。
…彼曰く

「こういうモンは変化があっていいだろ?ここじゃ、時間や季節もよくわからねぇからなぁ。」

年がら年中暇さえあれば部屋に閉じこもってゲームばかりしている奴がよく言うものだと思ったが
アヤ大尉は妙に乗り気で、二人してそれは楽しそうに世話をしていたものだ。
…まるで、本当の姉弟のようだと、見ていて不思議とほっとする雰囲気だった。

しかし、それから間もなくあの最後の決戦が起こり
SRXは封印され、リュウセイも咲く花を見ることなくその姿を消した―――




「ライ、今年もちゃんと咲きそうねぇ。…去年咲いたのとおんなじ色よね。」

「大尉…去年の株から取ったんですから、それは当たり前です。」

あれから早くも一年が経とうとしている。
リュウセイの行方は依然として掴めないばかりか、全くと言っていいほど手ががりが見つからない。
普通ならば、もう諦めるだけの時間に十分なのだろうか。

「…リュウったら、早く帰ってくればいいのに。また花の咲くところ見れないわよ。」

口調は怒っているようだが
その目は細められ、何かを懐かしんでいるように見える。

「そうだ、あなたの部屋にこんなものが置いてあるって、イングラムたちが不思議がっていたわよ。」

彼女は微笑みながらそう続けた。

―――確かに。こんな仏頂面の男の部屋にこれ以上不似合いなものもあるまい。
(アヤ大尉には盆栽ならぴったりだと言って笑われた事があるが。)

「ライ、ギャバンたち酷いのよ。
 あなたがこれに水をやったりしてるんだと思うとそれだけで大笑い出来るんだって。」

言いながら妙に大尉も嬉しそうだ。
彼らが来てから彼女にも少し明るさが増したような気がする。



―――不思議なもので、俺も大尉も
この鉢植えが枯れずにいる限り、リュウセイも何処かで元気でいるような気がしていた。
…それほどまでに縋る物のない状況を表している気もするが、
こんなものでもあるだけはましだ。

―――彼の事を、毎日忘れずにすむのだから―――



「アヤ大尉。」

大尉は俺の急な呼びかけに驚いたのか、目を少し大きくしてこちらを向いた。

「別に、いいじゃないですか。…今、リュウセイが帰ってこなくても。」

「ライ!?あなた何を…」

さらに言い募ろうとする彼女を制し、俺はこう続けていた。

「花は、来年でも再来年でも、あいつが返ってきた時に見せてやればいいんですから。」



そう、いつでもいい。その時が明日なのか、十年、二十年先かは知らないが
俺はけして諦めはしない。
リュウセイは必ず帰ってくる。
そして、彼らと同じように俺を笑い飛ばしてくれる事だろう。

その時は必ず来ると、そう、信じていよう―――。



―――そして、その時は案外早く、
今年の花が散るまでに間に合うことを
その時の俺達は無論知る由もなかったのだが。




元トップ絵のおまけにつけたSSです。
…あんな絵にどこをどうやればこんなSSつけられるんだか(笑)
本当に徒然なるままに作られたものなので、
あんまり内容について言及しないでやって下さい…(^^;)
ちなみに、舞台は「スーパーヒーロー作戦」です。