blue moon
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青く白く輝く月。 高い高い空のまんなかに、ぽつんと浮かぶ小さな満月。 まだ小さかった頃 その月をいつまでも見つめていた事がある。 回りがすっかり暗くなっても。 上ばかり見上げていて首が痛くなっても。 早く帰らないと叱られる時間になっても。 月はあんなにきれいなのに、遠い所にたった一人でいるかのようで。 見上げているこっちが、なぜだかとても悲しくなって。 いつまでも、いつまでも、両手を真上に伸ばしたまま。 月を見上げたまま動けなかった――─ 「おい、リュウセイ!…そんなに引っ張るな。」 ちゃんと付いて行くから、と後ろから少し呆れ気味のライの声が聞こえる。 「いいから、早く来いって!早くしねぇと一番いい所を見逃しちまうんだから!!」 リュウセイは、先程からライの手を握り(正確には掴むかもしれない) 彼を引っ張ってずんずんと歩いて(正確には走ってかもしれない)いた。 ここは、母艦の補給の為に寄った地球圏に近いとあるコロニー。 補給の間の1日ではあるが、作業に関係のない者には自由時間が与えられた。 宇宙での生活は地上よりもかなり体力を消耗するものだ。 少ない休憩時間に少しでも体を休めておこうかと、 部屋でくつろいでいたライを有無を言わさず引っ張り出したのがリュウセイだ。 部屋に入ってくるなり、 「ライ!いいもん見つけたからちょっとこっち来いよ!!」 ただでさえ大きな目をいっぱいに開き、 見上げてくる、きらきらと輝くような瞳に気圧されて ライはリュウセイに連れられ人通りの少ない通路を走らされていた。 「…おい、こっちは確か一部工事中のため立ち入り禁止ではなかったか…?」 「え、そうだっけ?」 そんな細かい事気にすんなよ、等と言いながら ライの言うことなどお構いなしで進んでいく。 ここで帰ると言っても、言い出したら聞かないリュウセイのことだ。 後々もっと面倒な事になるのは目に見えている。 こんな時は気の済むようにしてやるのが一番早く部屋に帰れる方法だと 今までの経験上でライは良く解っている。 どれ位進んできただろうか、 あるドアの前でリュウセイが立ち止まった。 「へへっ、着いたぜライ!ここ、ここ!」 と、ライの背中を押す。 先に入れといいたいようだ。 「…上からタライが降ってくるのではあるまいな。」 「…何でこんな日にそんなことしなきゃいけねんだよ。」 「こんな日?」 「い、いいから早く入れって!」 見るからに「しまった!」という表情を浮かべながらのセリフに ライの顔は険しくなる一方だったが、 いつまでもこんな事をしていて人に見つかっても面倒なので 言われるままドアを開いた。 「……!」 ドアを開け、中に入った瞬間 青く、白く輝く月が目に飛び込んできた。 地球では、もう豆粒ほどにしか見えなくなったが 太古の始まりの大地からはこの位の大きさに見えることもあったのだろうか。 「へへへ〜、どう?すごいだろ!」 後ろからリュウセイが得意げに声をかけてくる。 「ホントはさ、ここ、モビルスーツなんかの発射口の真上になるんだ。 試作機のテストをやるとかって聞いてたから、見れたらいいな〜と思って来たんだけど。」 有事の際の司令室にでもなる予定の部屋なのだろうか。 天井も居住区に比べて随分高く、がらんと広い空間になっている。 正面には継ぎ目のない強化ガラスが部屋の端から端まで、 ライの膝ほどの高さから天井付近まで張られている。 工事中のためか床も天井も簡素な資材が貼り付けられただけの状態で 明かりも通っていない。 そんな空間だから余計だろうが、 真っ暗な部屋の中、大きな月の光だけが目に映る光景は幻想的とも言えるものだった。 どれくらい月を眺めていただろうか。 いつの間にかライの横に来ていたリュウセイが口を開いた。 「おれ、小さい頃月の側まで行きたいなって思ってた事があったんだ。」 月の光に照らされたリュウセイの横顔には いつもの彼らしからぬ柔和な笑みが浮かんでいるように見える。 「真っ暗な空のてっぺんで、すっごくきれいなんだけど… 一人で、寂しそうだなって、そう思ってた。」 だから、側まで行ってやりたかったんだ そう言うリュウセイの瞳は、いつしかライの目を見つめている。 ライもつられてつい目を細めてしまう。 「…お前にしては気の利く事をするじゃないか。」 「へっ、どうせガラじゃないですよー。」 そう言って、拗ねた振りをしてライに背を向ける。 ライを始めて見たときあの時の月を思い出した。 とても気高く、きれいなライ。 でも、他人を寄せ付けない反面、どこかいつも寂しそうに見えて。 ライの側に居たい――と、そう思った。 ちらりと、横にいるライを盗み見る。 最初冷たい印象だった彼は、 本当はとても優しい男だという事を今のリュウセイは知っている。 小さい頃かなわないと思った事が思いがけず実現した日。 この月と、同じだと感じた人が生まれた日。 月を一緒に見たかったのか、 ライと月を一緒に見たかったのかはよく解らなかったけど どうしてもこの月を見て欲しいと思った。 ライの気に入るものなんて、自分ではどう考えても思いつきそうにないし、 思いのほか、このプレゼントはお気に召して頂けたようだ。 「ライ」 呼びかけると、ライは月を背にしてリュウセイを振り返った。 まだ、伝えきれない想いがあると思う。 今言いたい事も、まだ言葉にできない気持ちもたくさんあるけれど、 今側にいられることを素直に嬉しいと思える自分がいる。 だから、今一番言いたい言葉だけをくちびるに乗せる。 「誕生日、おめでとう。」 一瞬、ライの目が丸くなり、そしてやさしく細まる。 太陽の光を受けて輝く月も。 その月の光を背に受けて微笑むライも。 そのどちらも もう、寂しそうだとは思わなかった。 END |

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フフフ、遅筆な私がたった一日で書き上げた駄文です…(笑) しかも、丸々一年ぶりのSSですか? …ちょっとは頑張れよ小説書きって感じですね(TT) ライというと、ついイメージが月なんですよね。 前に書いたSSも月絡みだったような。 いけませんねぇ、ワンパターンは…(TT) なにはともあれ、 今年はイラスト一枚かと思っていたライの誕生日ですが、 何とかSSのひとつつける事が出来てよかったです(^^) お誕生日おめでとう!ライディースv …さて、次はリュウセイですね…(汗) 020709UP |