HAPPY BIRTHDAY
「待ってください!ライディース少尉!!」 今日の訓練を終えてロッカーに引き上げようとした所を とある女性オペレーターから呼び止められた。 どうやら今回の訓練結果のデータを渡す為追いかけてきてくれたようだ。 普段ならば翌日のミーティングの時にアヤ大尉やイングラム少佐から伝えられるものを わざわざ今渡してくれるという事は、おそらく普段通りの結果が出ていなかったのだろう。 チームの中では、自分ひとりだけがコロニーの出身だ。 日本の夏は気温が高く、それ以上に湿度が高い。 地球でのドイツの気候に似せて管理されていた、温室育ちの俺には少々厳しいものがあるのは確かだ。 様々な土地での訓練の成果もあり、地形適応能力は一般人と比べて高いレベルだと思うし、 また体調管理にも気を使ってはいるが、日本で生まれ育った者とはどうしても差が出るだろう。 ――そう思っていたのだが、それほど普段と変わった所も見受けられず 不思議に思いながらも、物のついでに他のメンバーの状態などをしばらく話していた。 すると、そのうち少し以外な言葉が耳に入ってきた。 「そう言えば、明日ってリュウセイ少尉のお誕生日ですよね。」 何かプレゼントされるんですか?となんだか楽しそうに聞いてくるが俺にとっては初耳だ。 「え、………そう…でしたか……」 何故か俺は少し動揺しつつ、そう答えた。 前言を撤回する。少し所ではなく俺の中では非常に驚くべき事項だったらしい。 「あら、ご存じなかったんですか?」 心底意外そうな顔で俺の事を見つめ、彼女はこう続けた。 「リュウセイ少尉は人気者ですからね。何をあげるか、随分前から考えてる人もいるみたいですよ。 …ライ少尉に聞けばリュウセイ少尉の好きなもの知ってるんじゃないかって、みんな言ってましたけど?」 …道理で最近リュウセイのことを聞きに来る奴が多かったわけだ。 とりあえず、今回のデータについて必要な事は全て聞いたので オペレーターとはそこで別れ、ロッカーに向かう事にした。 廊下を進む道すがらにさっき聞いた話を思い出す。 …リュウセイの誕生日か。 チームの一員として、やはり何か祝ってやるべきだろう。 ……だが急に明日だと言われてもな…。 > あいつの喜びそうなものなら何となく見当はつく…と、言うよりは誰が見ても一目瞭然だ。 しかし普段から「私物を持ち込むな」と諌めている立場にある以上、 これ以上リュウセイの部屋に玩具の類が増えるのは好ましくない。 ましてや、自分がその片棒を担ぐ事ができるわけもない。 誕生日の事を知らないままだったら、「知らなかった」と謝れば済む事なのだろうが、 知ってしまった以上はそうもいかない。 だが、今から用意できるものでリュウセイが喜び、且つ玩具でないもの… ……ひとつ、思い当たる物があるが、そのまま渡してしまっていいものだろうか…。 そこまで考えたとき、行き止まりに突き当たった。 ロッカールームを随分行き過ぎてしまっていたことに気付き、 回れ右をしてもと来た道を戻る。 …道を戻りながらふと思う。 「…そこまで考え込むような事でもないか…」 もう夜も更け、何かを買うにしても店は閉まってしまう頃だろう。 明日の事は、明日考えよう。 …しかし、どうしてもその事は俺の頭から離れず、 翌日のリュウセイの部屋の最悪のイメージがちらちら浮かぶ事もあり、 その夜はとても熟睡できたとは言えなかった。 翌日。 俺の最悪の予想は見事に的中していた いつものように訓練後リュウセイと二人、連れ立って歩いていると、 すれ違う人殆ど全員といってもいいくらいの人間からプレゼントを貰っている。 食堂から部屋へ帰るまでの間にリュウセイの手は荷物で塞がり、前も見えないほどだ。 「………なぁ、ライ」 声はすれどもリュウセイの顔は見えない。 見えるのは色とりどりのラッピングの山ばかりだ。 「何だリュウセイ」 「ドア…開けてくんない?」 仕方がないので見たくはなかったがリュウセイの部屋のドアを開けて中に入る。 …中に入るのはリュウセイが持ちきれなかった荷物を少し持っていたからだ。 そして中には、俺が描いた最悪のイメージそのものといってもいい図が展開されていた。 床と言わず、ベッドの上にまで荷物が散乱しており、まさしく足の踏み場もない。 小さな小物の類から、子供の背丈ほどもありそうなマジンガーZのぬいぐるみまで プレゼントは本当にバラエティーに富んでいた。 「ライ、悪かったな、荷物待たせちまって」 リュウセイは適当にベッドの上の包装紙などをどかして、よっこらしょとそこに座る。 「ライも適当に座ってくれよ。茶でも入れるから…」 確か、朝のうちに貰った箱に紅茶が入ってた、等と言いながら、荷物の山をがさがさ探し始める。 …そうは言われてもどこの辺りに座ればいいものか。 仕方なくリュウセイが座っていた辺りの場所をもう少し確保し、端の方に座る事にした。 リュウセイは、まだ荷物の山と格闘している。 改めて部屋の中を見回してみたが…………この量は異常だ。 リュウセイが軍の中でアイドル的存在であるのは俺も知っている。 壮年から年配の者たちには国にいる息子を思い出すとかわいがられているし、 妙齢の女性からも元気が良くて素直な良い子だと贔屓されているらしい。 無論、パイロットのクセにしょっちゅう出入りしている格納庫の面々には大変な気に入られぶりだ。 年若い女性達もこの男の何処がいいのか結構な人気らしい。 そういえば同年代の者の中では、同性でも異性でも、 リュウセイのことを嫌っている人間というのにはお目にかかった事がない。 敵ばかり作っている俺には考えられないことだ。 それだけ、人をひきつける魅力のような者をリュウセイは持っている。 彼と知り合う者はみな、彼をとても親しく身近に、それこそ身内のように思ってしまうようだ。 ……そこまで考えてみるとこの物量もそうおかしな量ではないのかも知れないと思えてくる。 …しかし、それでもやはり不思議なことがある。 やっとの事で紅茶の缶を見つけ出し、こちらに戻ってくるリュウセイに聞いてみる。 「おい、リュウセイ」 「ん?なんだ?」 俺の隣りに座り、こちらを見上げてくる。 「よくみんな…お前の誕生日の事を知っていたものだな…」 SRXチームのプロフィールは極秘扱だ。 本人に黙って資料で調べるということは出来ないだろうし、 口コミで広まったにしては範囲が大きすぎるように思う。 「…うん…そうだな…俺もまさかこんなに広まるとは思って…」 途中で言葉が途切れる。 リュウセイはしまった!と言うような顔をして口を手で抑えている。 ………もしや。 「…お前、プレゼント欲しさに自分の誕生日を言いまわったのか?」 「な!ち、ちがうよ!!」 リュウセイがすごい勢いで否定する。 「確かにこれだけみんなから祝ってもらえるのはうれしいけど…」 と言いながらマジンガーのぬいぐるみを抱きしめ下を向く。 …いくつだお前は… そう思いながらも、どこか微笑ましく見えてしまうのはどうした事だろうか。 そうしているとリュウセイがポツリと呟いた。 「ライは…何にもくれねぇんだな」 「何だ、これだけ貰っておいて、まだ俺からも何か欲しいのか?」 「ちがうよ!俺が欲しかったのは、最初からお前のだけだ!」 おれは驚いてリュウセイを見た。 リュウセイはまた、しまったと言う顔をして口を抑えている。 …今度は顔が耳まで赤くなっていたが。 「……どういう事だ?」 リュウセイは、下を向いたままぼそぼそと話し出した。 「…だって、誕生日がいつだ、なんて言ったら、 プレゼントが欲しいって、面と向かって催促してるみたいでいやじゃねぇか。 ……みんなに言っとけば、そのうちライにも知れるかな〜と、…思って…」 そして、最後に小さく、「回りくどい事して、ごめん」と付け足した。 それは、俺以外の人間になら言えるという事か? …普通は、近しい者にほどこういったことは言いやすいものではないのだろうか…。 今度は顔を上げて、リュウセイが口を開く。 「ライからのが欲しい。…何でもいいんだ、大事にするから…」 大きな目が、こちらを見上げている。 そんなに、気合を入れるような内容の話でもないと思うのだが リュウセイは真剣そのものだ。 何故、俺からのプレゼントにそこまでこだわるかはよく解らないが、 ここまで言われては仕方がない。 …返って嬉しいような気もしてくるのが自分でも不思議だが。 俺はひとつ溜息をつくと、付けていた腕時計をはずし、リュウセイに差し出した。 少しアンティークなアナログの腕時計だ。 比較的重厚なつくりで、リュウセイ曰く「カッコいい」のだそうだ。 リュウセイが前に一度、自分もこんな時計がほしいと言っていたのを覚えている。 本当は、これと同じ物を買って渡すつもりだったが結局今日は探しに行けなかったのだ。 「え…?ライ、これ…?」 リュウセイは、素直に受け取りながらも意外そうな顔でこちらを見ている。 何気なく、リュウセイの髪に右手を伸ばす。 そっと、なでるようにしてもそれには構わず、こちらの言葉をじっと待っているようだ。 真っ直ぐ見つめてくる瞳を見返していると、映る俺の顔が自然と綻んでいるのが解る。 …俺は、こんな顔もできたんだなと、気付いたのはいつだったろうか。 「…この前の演習で自分のを計器にぶつけて壊したと言っていただろう。 ……お前の誕生日の事は昨日聞いたんだ。急に買いに行けなくてな。 今度の休みの時にでも買い直す。…それまでの代わりだ。すまないがしばらく我慢してくれるか?」 それを聞いた途端、リュウセイの顔がぱあっと明るくなる。 「ううん、これでいい!!新しいのより、こっちの方がいい!」 そして、時計を大事そうに手の中へ包むように抱きしめる。 「……ありがとう、ライ。覚えててくれたんだな……一生、大事にする。」 その神妙な様子に思わず笑みがこぼれる。 「大げさな奴だな。」 「なんだよ!人が折角、珍しく真面目に礼を言ってるってのに!!」 「ほう、普段は真面目ではないという自覚はあるんだな」 ここからはいつもと同じような言葉の掛け合いだ。 はたから見ればケンカのように思うかもしれないが 今のように、リュウセイの顔が笑っている間は日常会話の範疇だ。 ふと、大事な事を言っていなかったのを思い出した。 「リュウセイ」 呼びかけると、きょとんとした顔でこちらを見ている。 くるくると表情の変わるリュウセイを見ていると本当に飽きない。 ずっと、このまま変わらずいて欲しいと思う。 そして、そんなリュウセイの隣りにいつもいたいと願う自分が居る。 友情とは、多分、少し違う気持ち。 まだ、自分の中で説明をつけることは出来ないが、 少なくとも今日の為にどれほど自分が振り回されても、 どんな形であっても、リュウセイの誕生日に一緒にいられたことを幸せだと思っている。 言葉には、とてもまとめられない思いを込めて一言だけ。 「誕生日、おめでとう」 嬉しそうに笑うリュウセイの顔を見ながら、 俺は昨日呼び止めてくれたオペレーターに心から感謝していた。 END |
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今回の内容を一口にまとめますと… 「まだラブじゃないけどお互いのことは思いっきり意識しまくってて でもそれにお互い気が付いていない傍から見れば思いっきり ラブラブなライリュウ(やたらひねくれた精神構造のライ視点)」 …何考えてんだ、私…(笑) 好きなんですよ、ラブ一歩手前(笑) でも書こうと思うと難しいんですよね―(TT) なんか、今回のは二人ともちょっと人格壊れちゃってますし(特にライ)。 まぁ、恋に落ちると人はおかしくなる、ということでひとつ(笑) …こんなんでごめん!リュウセイ!!(本音) 読んで下さった方もすみません。こんなんで… 勘弁してやって下さい…(--;) 020808UP |